研究内容
植物は環境ストレス変化に対して適応する様々な機構を備えています。植物の環境ストレス適応・馴化に関する制御機構(化合物・エピジェネティクス・RNA・ペプチドなどが関与する)を最先端のゲノム科学的方法などを用いて明らかにします。熱帯の重要な澱粉資源作物であるキャッサバに関して、統合オミックス解析などにより塊根生成制御ネットワークを明らかにします。化学制御技術や形質転換技術などの活用により新たな有用植物資源(環境ストレス耐性強化、生産性向上など)の創出法の開発を目指します。
- 環境ストレス適応・馴化に関与するRNA制御機構の解明
- 環境ストレス適応・馴化に関与するエピジェネティック制御機構の解明
- 環境ストレス適応・馴化に関与するペプチド制御機構の解明
- 化合物などの活用による新たな有用植物資源(環境ストレス耐性植物など)の創出法の開発
- キャッサバにおける塊根形成制御ネットワークの解明および生産性向上などの有用植物の創出法の開発
1. 環境ストレス適応・馴化に関与するRNA制御機構の解明
近年の研究から植物の環境ストレス適応に、RNA制御の関与が示唆されてきています。本研究グループは、環境ストレス適応における非翻訳型アンチセンスRNAやRNAの分解・安定化などが関与するRNA制御機構の解明を目指した研究を進めています。得られた知見を活用し、ストレス適応力強化などの技術開発を目指します。
- <論文情報 >
- 本研究内容をプレスリリースとして発表しました。
約7,300種のシロイヌナズナ新規ノンコーディングRNAを同定 (Matsui et al., Plant Cell Physiol. 49: 1135-1149.(2008)
不良mRNAの品質管理機構が、mRNA様ノンコーディングRNAを抑制(Kurihara et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106:2453-2458. (2009)
越冬性植物の遺伝子発現とタンパク質発現にタイムラグ(Nakaminami et al., Mol Cell Proteomics 13:3602-3611(2014)
植物の新しい環境ストレス適応機構の発見-環境ストレス下でアンチセンスRNAがセンスRNA分解を促進-(Matsui et al., Plant Physiol. 175: 457-472.(2017) - 本研究内容がRIKEN Researchに取り上げられました。
Making sense of the antisense (Matsui et al., Plant Cell Physiol. 49: 1135-1149.(2008))
Plant stress adaptation in the hot seat (Nguyen et al. Plant Cell Physiol. 56:1762-1772.(2015))
2. 環境ストレス適応・馴化に関与するエピジェネティック制御機構の解明
植物の環境ストレス適応・耐性獲得においてエピジェネティックな制御が重要な役割を果たしていることが示唆されつつあります。本研究グループは、ヒストン修飾などのエピジェネティックな制御機構の解明を通して、環境ストレス適応力強化などに関与する新規な制御ネットワークの発見を目指した研究を進めています。
- <論文情報 >
- 本研究内容をプレスリリースとして発表しました。
Unwinding the secrets of stress in plants could help feed the world during climate crisis (Vincent et al. (2022) BMC Biol.)
環境ストレス応答時のクロマチンの状態変化を同定(Kim J.M. et al., Plant Cell Physiol. 49:1580-1588.(2008)
植物が「よそ者遺伝子」を眠らせるしくみを発見(Numa et al.,EMBO J. 29:352-362. (2010)
植物が有害DNAからゲノムを保護するメカニズムを解明(To T.K et al.,PLoS Genet. 7:e1002055. (2011)
植物の耐塩性を高める化合物を発見-ヒストン修飾を制御し、塩排出能力を強化-(Sako K et al., Plant Cell Physiol. 57:776-783 (2016)
トランスポゾンが環境ストレス耐性植物を誕生させた(Ito H et al., Scientific Rep. 6:23181 (2016)
植物のエピジェネティクス変化をリアルタイムに捉えることに成功(Kurita et al., Scientific Reports 7: 45894 (2017)
植物に酢酸を与えると乾燥に強くなるメカニズムを発見(Kim et al., Nature Plants 3: 17097 (2017)
植物の耐塩性に関わるヒストン脱アセチル化酵素の同定(Ueda et al., Plant Physiol. 175:1760-1773 (2017) - 本研究内容がRIKEN Researchに取り上げられました。
The molecular machinery of drought response (Kim et al. Plant Cell Physiol.49:1580-1588.(2008))
Vinegar survivors (Kim et al., Nature Plants 3: 17097 (2017)) - Kim J.M.博士の図がPlant Cell Physiol. 53 (2), 2012 の表紙に選ばれました。
←クリックするとpdfが開きます。 - JSTのCRESTのプロジェクトを農研機構および東京理科大のグループとの共同研究として開始しました(2013-2018).
課題名:エピゲノム制御ネットワークの理解に基づく環境ストレス適応力強化および有用バイオマス産生
研究代表者:関 原明 Link 中間評価結果 事後評価
CRESTの研究成果がJSTの顕著な研究成果にも選ばれました。
3. 環境ストレス適応・馴化に関与するペプチド制御機構の解明
近年、生理活性を持つ機能性ペプチドが、植物の様々な生命現象に関与することが報告されてきています。本研究グループは、植物の環境ストレス耐性獲得に関与する新規なペプチドの同定を目指した研究を進めています。
- <論文情報 >
- 本研究内容をプレスリリースとして発表しました。
未知のゲノム領域にペプチド大陸が存在(Hanada K et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110: 2395-2400.(2013)
塩耐性を強化する植物ペプチドの発見(Nakaminami K et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 115: 5810-5815.(2018)
4.化合物などの活用による新たな有用植物資源(環境ストレス耐性植物など)の創出法の開発
地球温暖化などの環境変動による干ばつや塩害の発生は、作物の成長や収量の低下など、世界規模で大きな問題となっています。本研究グループは、化合物やゲノム編集技術などを用いて、環境ストレス耐性を付与しながら植物の生育も阻害しない技術の開発を進めています。本成果を応用することにより、持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を目指しています。
- <論文情報 >
- 本研究内容をプレスリリースとして発表しました。
エタノールが植物の乾燥耐性を高めることを発見(Bashir et al. (2022) Plant Cell Physiol.)
エタノールが植物の高温耐性を高めることを発見(Matsui et al. (2022) Plant Mol. Biol.)
植物の乾燥耐性とバイオマス生産性を高める化合物を発見(Ahmad et al. (2021) Plant Mol. Biol.)
植物の耐塩性を強化する化合物を新たに発見 (Sako et al. (2020) Scientific Rep. 10:8691)
植物の病原菌感染を防ぐ画期的な植物免疫強化剤を開発 (Takaoka et al. (2018) Nature Commun.)
エタノールが植物の耐塩性を高めることを発見(Nguyen HM et al., Front. Plant Sci. 8: 1001.(2017) - 本研究内容がIt Ain't Magic Science Blogに取り上げられました。
Plant peptide spells relief from salty stress.
Transgenic plants on acid survive without water. - 本研究内容がRIKEN Researchに取り上げられました。
Ethanol preps rice and wheat for drought (Bashir et al. (2022) Plant Cell Physiol.)
Creating More Semi-Arid Crops (Vu et al. (2022) Plant Mol. Biol.)
Ethanol helps plants better tolerate heat stress(Matsui et al. (2022) Plant Mol. Biol.)
5. キャッサバにおける塊根形成制御ネットワークの解明および生産性向上などの有用植物の創出法の開発
キャッサバは、高温や乾燥、貧栄養土壌などの不良環境でも生育可能な熱帯作物です。キャッサバの根には塊根が形成されます。この塊根中で合成されるデンプンは、全世界の10億人の食糧源や収入源となっており、キャッサバは食糧安全保障および産業利用上、重要な作物として位置づけられています。持続的な食糧生産を維持するために、塊根形成などの分子メカニズムの解明を目指した研究を進めています。得られた知見を活用し、生産性向上や環境ストレス耐性強化などの有用キャッサバの創出法の開発を目指しています。
- <論文情報 >
- 本研究内容をプレスリリースとして発表しました。
東南アジアのキャッサバ重要品種の形質転換系を開発(Utsumi et al. (2022) Plant Mol. Biol. 109:271-282.)
難消化性デンプンを豊富に合成するキャッサバ植物の開発 -機能性食品の素材開発に貢献-(Utsumi et al. (2022) Plant Mol. Biol. 108:413-427.)
世界最大規模:キャッサバ(タピオカ)完全長cDNA約11,000種を同定(Sakurai et al. (2007) BMC Plant Biol.)
キャッサバの系統間におけるDNA配列の違いを網羅的解析により同定 (Sakurai et al. (2013) PLOS ONE)
キャッサバ開花の謎に迫る (Tokunaga et al. (2020) Plant Mol. Biol.)
キャッサバ塊根の形成メカニズムを解明 (Utsumi et al. (2020) Plant Mol. Biol.) - 本研究成果が広報誌に紹介されました。
タピオカの原料“キャッサバ”で世界を救う(クローズアップ科学道、2022年2月)
Environmental cues control cassava flowering(「Research News - Research Highlight」 2020年11月号)
キャッサバの塊根形成の仕組みを解明(JST news 2020年11月号)。 - 本研究内容がIt Ain't Magic Science Blogに取り上げられました。
Cassava engineered to produce healthier tapioca starch - 科学技術振興調整費事業 (アジア・アフリカ科学技術協力の戦略的推進、 国際共同研究の推進)"提案課題:熱帯作物分子育種基盤構築による食糧保障、研究 代表者:関 原明"を平成21-23年度実施しました。Link
事後評価結果(S:所期の計画を超えた取組が行われている)が公開されました。
事後評価結果1 事後評価結果2 - JSTのe-ASIAプロジェクトを日本、ベトナム、タイの3か国の国際共同研究として開始しました(2012-2015)
課題名: 最先端科学技術を用いたキャッサバ分子育種の推進Link
PIs:
日本: Motoaki Seki (RIKEN CSRS)
ベトナム: Ham Huy Le (AGI)
タイ: Jarunya Narangajavana (Mahidol Univ.)
事後評価結果 最終報告書 - JSPSの頭脳循環プロジェクトを開始しました(2016-2018)
課題名: 我が国を拠点とした実用作物の世界最先端ゲノム編集研究国際ネットワークの構築
研究代表者: 辻 寛之(横浜市立大学木原生物学研究所 准教授)Link
事後評価結果 実施報告書
- JICA/JSTのSATREPSのプロジェクトを日本、ベトナム、カンボジア、タイの4か国の国際共同研究として開始しました(2016-2020)
課題名: ベトナム、カンボジア、タイにおけるキャッサバの侵入病害虫対策に基づく持続的生産システムの開発と普及
研究代表者: 高須 啓志(九州大学 大学院農学研究院 教授)Link
プロジェクトニュース
中間評価報告書 終了報告書 終了時評価報告書 - JSTの戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)に基づくEIG CONCERT-Japanプロジェクトを開始しました(2017-2019)
課題名: 持続的な作物生産のためのジャガイモとキャッサバの比較オミックス解析 研究代表者: Salome Prat(スペイン国立バイオテクノロジーセンター 教授)Link
終了報告書 事後評価書 - NEDOムーンショット型研究開発事業として風化促進プロジェクトを開始しました(2022-2024)
課題名: LCA/TEAの評価基盤構築による風化促進システムの研究開発(PM: 産総研 森本慎一郎 研究チーム長)Link